蔵人だより 手間と時間をかけて醪を搾る「槽搾り」

日本酒を造る工程の中に「上槽(じょうそう)」があります。これは醪を搾って、日本酒と酒粕に分けることで、最も一般的な自動圧搾機を使って搾る方法と、酒袋に醪を入れ吊るして自然の力で搾る「袋吊り(ふくろづり)」、そして今回紹介する「槽搾り(ふなしぼり)」という3つの方法で行われています。 「槽搾り」は、縦342cm×横92cm×高さ110cmほどの大きさの酒槽に、醪を入れた酒袋を積み重ね、無理な圧力をかけずに自らの重みでゆっくりと搾り、最後に機械で圧力をかけて搾る方法です。

 

蔵人全員でポンプから送られてくる醪を酒袋に入れ、口は独特の方法で折り返し、しっかりとしわを伸ばして酒槽に積み重ねていきます。このとき、醪の量が多すぎる場合や、酒袋がうまく並んでいないと圧力がうまくかからず、酒袋が破裂することもあるため、すべて手作業でとても慎重に作業が進められます。まさに蔵人の熟練の感が必要とされる作業といるでしょう。さらに、水分をたっぷりと含んだ酒袋はずっしりと重みがあり、かなりの重労働です。 約半日かけて酒袋を並べる作業を行い、蓋をして1日目は自重により搾り、2日目はゆっくりと圧搾します。ポンプで醪を送り半日で搾る自動圧搾機での搾りに比べ、時間と手間がかかる作業で、大量には造ることはできませんが、微発泡性の若々しいフレッシュ感のあるお酒に仕上がります。

 

「夜明け前」の中で、「槽搾り」で上槽を行っているのは、2000年2月に季節限定商品として誕生した「夜明け前 純米吟醸生一本 しずく採り」だけです。これは、兵庫県産の山田錦を使用し、精米歩合は55%、この製品のだけのために麹米造りや醪管理を行って特別に仕上げたお酒です。白濁したしずくを集め、ろ過をしないで瓶詰しているため、華やかな香りと米本来のしっかりとした旨味があり、よりぴちぴちとしたフレッシュ感が味わえるのが特長。清都杜氏が目指した「リンゴの様な華やかな香りとほんのりとした甘みがあり、後口がすっきりとした飲み飽きしない味」を実現しました。蔵人たちが苦労を惜しまず、手間と時間をかけて生み出した「夜明け前 純米吟醸生一本 しずく採り」。蔵人たちの深い思いはこの「うすにごり」のお酒に映し出されています。 うすにごりの「純米吟醸 生一本 しずく採り」は毎年11月下旬から仕込みが始まり、1月上旬に上槽が行われます。1月下旬に販売が開始される、数量限定、この時期だけの味わいです。